相続税「逃れ」の実態――富裕層だけが知っている抜け穴と、世界との比較で見えてくる格差社会の真実

相続税「逃れ」の実態――富裕層だけが知っている抜け穴と、世界との比較で見えてくる格差社会の真実 未分類

## 相続は「格差をリセットする」唯一のチャンスのはずだった

人は誰しも、いつか死ぬ。そのとき、それまでに積み上げてきた財産は次の世代へと移っていく。この「相続」というタイミングは、本来、社会の富の偏りをリセットできる数少ない機会のひとつだ。

親がどれだけ裕福であるかは、本人の努力とは無関係に生まれてくる子どもたちが決めることではない。だからこそ、相続に課税することには「一代限りで格差を再生産させない」という重要な社会的意義がある。

ところが現実には、その税金を最も払う余裕がある富裕層ほど、払わないための手を打っている。今回は、その実態を日本と世界の比較を交えながら、できる限り正直に見ていきたい。

## 日本の相続税、世界と比べると?

まず基本的な数字を確認しよう。日本の相続税の最高税率は55%(2015年以降)。法定相続分に応じた課税額が6億円を超える部分に適用される。この税率は、世界でも最も高い水準のひとつだ。

主要国との比較を見てみよう(最高税率、2025年時点の概算)。

| 国 | 最高税率 | 備考 |
|—|—|—|
| 日本 | 55% | 相続人が子の場合 |
| 韓国 | 50% | 最大株主割増あり |
| フランス | 45% | 子への相続の場合 |
| イギリス | 40% | 一定額を超える部分 |
| アメリカ | 40% | 連邦遺産税、基礎控除が非常に大きい |
| ドイツ | 30% | 配偶者・子への相続は低め |
| カナダ | 課税なし | キャピタルゲイン税で代替 |
| オーストラリア | 課税なし | 同上 |
| スウェーデン | 課税なし | 2004年廃止 |
| シンガポール | 課税なし | 2008年廃止 |
| 中国 | 課税なし | 未導入 |

こうして並べると、日本の税率が非常に高いように見える。しかし注意が必要だ。税率が高いことと、実際にたくさん税金が集まることは、必ずしも一致しない。なぜなら、税率が高ければ高いほど、回避する動機も強くなるからだ。

## 基礎控除という「壁」――実は多くの人は払っていない

日本では相続税に基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)がある。つまり、相続人が子ども2人なら「3,000万円+1,200万円=4,200万円」までは非課税だ。

実際、国税庁のデータによれば、相続税の申告が必要になるのは亡くなった人全体の約9〜10%にすぎない。つまり、日本の相続税は「ほとんどの人には関係ない税金」であり、課税されるのは主に一定以上の資産を持つ層だ。

だとすれば、問題はシンプルだ。その「課税されるべき層」が、きちんと払っているかどうか、である。

## 富裕層が使う「節税」という名の抜け穴

ここからが本題だ。法律の範囲内で税負担を減らすことを「節税」と呼び、それ自体は違法ではない。しかし、その手法の中には「これは本当に法の趣旨に沿っているのか?」と首をかしげたくなるものが少なくない。

### ①生前贈与で少しずつ移す
日本では年間110万円までの贈与は非課税だ(暦年贈与)。これを毎年計画的に行えば、相続財産を大幅に圧縮できる。例えば10年間、3人の子に贈与し続ければ、それだけで3,300万円を非課税で移せる計算になる。

この方法は「知っている人は皆やっている」常識的な手法だが、そもそも毎年110万円を計画的に贈与できるのは、それだけの余裕がある富裕層だけだ。贈与税の非課税枠が、結果的に「持てる者への優遇策」になっているという批判もある。なお、2024年の税制改正で、死亡前7年以内の贈与は相続財産に加算されるよう変更された(従来は3年)。制度の抜け穴が少しずつ塞がれてはいるが、まだ十分とは言えない。

### ②不動産に変えて評価額を下げる
現金1億円をそのまま相続すれば、1億円として課税される。しかし同じ1億円でマンション(収益物件)を買うと、相続税評価額は市場価格より大幅に低くなることが多い。土地は「路線価」、建物は「固定資産税評価額」で計算されるため、実勢価格の6〜8割程度になるケースが一般的だ。

さらに賃貸物件であれば「貸家建付地」として評価が下がり、節税効果はさらに大きくなる。これは完全に合法だが、現金を持っている人だけが使える手法であることは間違いない。

2022年には、タワーマンションを使った極端な節税策(時価の数分の一に評価を下げる)を国税庁が問題視し、最高裁もこれを否認する判決を下した。しかし、通常の不動産節税は今なお広く行われている。

### ③個人の財産を「法人」に移す
ここからが、より踏み込んだ問題だ。富裕層の間では、個人が持つ財産を家族で設立した法人(資産管理会社)に移すという手法が広く使われている。

具体的には、不動産や株式などの資産を法人名義にし、その法人の株式を子どもたちに少しずつ贈与していく。こうすることで、財産を直接相続させるよりも税負担を大幅に下げることができる。

この手法の何が問題か。財産そのものの所有者が「個人」から「法人」に変わるため、個人への相続税が発生しにくくなる。本来は富の移転に課税するはずの相続税が、法人という「器」を挟むだけで骨抜きになってしまうのだ。

会社を設立し、専門の税理士に相談しながら設計するこの手法は、数千万円単位の初期費用と継続的なコストがかかる。つまり、これもまた「やれる人間が限られている」富裕層専用の手法だ。

## 海外資産を使った隠蔽――脱税の実態

節税を超えて「脱税」になると、話は全く別次元になる。

### 海外口座への資産移転
スイスやケイマン諸島などの「タックスヘイブン(租税回避地)」と呼ばれる地域の銀行口座に資産を移し、申告しないというケースが実際に摘発されている。かつてはスイスの銀行が顧客情報を秘匿していたが、2018年以降、各国税務当局間での金融口座情報の自動交換制度(CRS)が始まり、以前ほど容易ではなくなっている。

それでも摘発事例は後を絶たない。冒頭のブリーフィングにあったように、HOYA元社長の遺族が海外資産など約90億円の申告漏れを指摘されたケース(2021年)や、スイス銀行口座の資産約11億円を脱税した疑いで告発されたケース(2011年)が実際に起きている。

### タンス預金・名義預金
現金をタンスや金庫に隠す「タンス預金」、あるいは家族名義の口座に移して「自分の財産ではない」と装う「名義預金」も脱税の典型手口だ。しかし税務署はこれを見破る術を持っている。KSK(国税総合管理)システムによって、被相続人の収入履歴・生活水準・口座の動きを突き合わせ、「この収入でこの預金はおかしい」という矛盾を検知する。相続税の税務調査率は他の税目と比べて格段に高く、申告件数に対する実地調査の割合は約10%前後(年度によって変動)にのぼる。

脱税が発覚した場合、本来の税額に加えて重加算税(35〜40%)が課され、悪質なケースでは10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金という刑事罰も待っている。「バレなければいい」は幻想だと知るべきだ。

## 海外の「抜け穴」事情――日本だけの問題ではない

富裕層の節税・租税回避は、日本だけの話ではない。

アメリカでは、連邦遺産税の基礎控除が2024年時点で約1,360万ドル(約20億円)にのぼり、多くの富裕層がその範囲に収まるよう財産を設計する。「GRAT(Grantor Retained Annuity Trust)」という信託スキームを使えば、財産の増加分を非課税で子に移せるとされ、ウォーレン・バフェットの家族も活用していると指摘する報道がある。

イギリスでは、農地・非上場株式に大幅な相続税免除(最大100%)があり、これを活用するために農場を買う富裕層が後を絶たない。2024年にスターマー政権がこの優遇を縮小しようとしたところ、農家や資産家から猛烈な反発を受けた。

フランスでは、持株会社を通じた「Pacte Dutreil(デュトレイユ協定)」により、一定の要件を満たした事業資産の相続税を75%減額できる制度がある。これも富裕な事業オーナーに有利な仕組みだ。

そして相続税を廃止した国々——スウェーデンやオーストラリアは「廃止後に格差が拡大した」という研究もあれば、「経済活性化に貢献した」という主張もある。どちらが正しいかは単純に言えないが、少なくとも廃止によって恩恵を最も受けたのが富裕層だったことは間違いない

## 制度の「理念」と「現実」の乖離を直視しよう

相続税には本来、富の集中を防ぎ、次の世代に公平なスタートラインを与えるという理念がある。しかし現実には、その理念を享受できるのは制度を「使いこなせない」普通の人々であり、富裕層ほど税理士・弁護士・信託銀行などのプロを使って負担を最小化している

これは個人の倫理の問題だけではない。制度設計の問題でもある。法人を使った節税、評価額と実勢価格の乖離、海外資産の把握の難しさ——こうした「抜け穴」が放置されている限り、相続税は「知識とお金がある人には機能しない税」であり続ける。

あなたはこの現状をどう思うだろうか。「うまくやれる人が賢い」と割り切るのか、「制度の公平性に問題がある」と感じるのか——それを考えることが、より良い社会を作る出発点になるはずだ。

## まとめ:知ることから始まる

– 日本の相続税は最高55%と世界最高水準だが、実際に課税されるのは相続全体の約10%
– 富裕層は生前贈与・不動産・法人化などを駆使して税負担を合法的に圧縮している
– 個人財産を法人に移す手法は、相続税の「本丸」を迂回する最も強力な手段のひとつ
– 海外口座を使った脱税は摘発が増えているが、根絶には至っていない
– 同様の問題は欧米各国でも存在し、「富裕層と税制の攻防」は世界共通の課題だ

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